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鹿児島地方裁判所 昭和40年(行ウ)2号 判決 1969年5月26日

原告 小林工業株式会社

被告 加治木税務署長

訴訟代理人 日浦人司 外三名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の申立)

第一、原告の申立

被告が原告に対し、原告の昭和三六年一月一日から同年一二月三一日に至る事業年度の法人税について昭和四〇年三月二四日付をもつて昭和三七年一月一日から同年一二月三一日に至る事業年度の法人税について昭和四〇年四月二八日付をもつて、昭和三八年一月一日から同年一二月三一日に至る事業年度の法人税について昭和四〇年五月一八日付をもつてなした各法人税額の更正および各過少申告加算税の賦課処分はいずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二、被告の申立

主文同旨の判決を求める。

(当事者の主張)

第一、原告の請求原因

一、原告は木材の販売を業とする株式会社であるところ、被告は、原告の昭和三六事業年度(同年一月一日から同年一二月三一日に至る)、昭和三七事業年度(同年一月一日から同年一二月三一日に至る)、昭和三八事業年度(同年一月一日から同年一二月三一日に至る)(以下順次単に、三六年度、三七年度、三八年度という)の法人税について、それぞれ順次昭和四〇年三月二四日付、同年四月二八日付ならびに同年五月一八日付の各法人税額の更正通知書および加算税賦課決定通知書をもつて次のどとき更正処分(以下本件更正処分という)ならびに過少申告加算税賦課処分をした。

(1)  昭和三六年度分法人税に関する昭和四〇年三月二四日付更正

表<省略>

(2)  昭和三七年度分法人税に関する昭和四〇年四月二八日付更正

表<省略>

(3)  昭和三八年度分法人税に関する昭和四〇年五月一八日付更正

表<省略>

二、原告は、右(1) ないし(3) の各更正処分について、それぞれ順次昭和四〇年三月二四日、同年五月二七日ならびに同年六月一八日熊本国税局長に対し各審査の請求をしたが、同国税局長は右(1) の処分について同年六月三〇日付、右(2) および(3) の処分について同年一二月二五日付をもつて右各審査の請求を棄却する旨の裁決をなし、その通知書はそれぞれ順次同年七月七日頃および翌四一年一月八日頃原告に到達した。

三、しかしながら、被告のなした前記更正処分は次の点において違法である。

すなわち、被告は、(1) 三六年度分法人税に関する本件更正処分において、原告の申告にかかる経費中、特別賞与として計上した金五、七〇〇、〇〇〇円は原告会社労働組合に支出された寄付金であるとし、また原告が特別給与として計上した金五六三、〇〇〇円は、原告会社労働組合の前身である従業員懇親会に浴場建設資金として支給した寄付金であるとし、(2) 三七年度分法人税に関する本件更正処分において、原告が特別賞与として計上した金二、四〇〇、〇〇〇円は前同様寄付金であるとし、(3) 三八年度分法人税に関する本件更正処分において、原告が特別賞与として計上した金一二、五〇〇、〇〇〇円も又前同様寄付金であるとし、また期末に原告会社役員をはじめ従業員全員に一月金七五〇円の割合で一括支給した通勤手当として計上した金五〇〇、二五〇円もまた原告会社労働組合に支出された寄付金であるとして、いずれも損金としての取扱を否認したのであるが、これらの各支出はいずれも原告が原告会社労働組合ないしその前身である従業員懇親会との団体交渉の結果やむなく支出したもので名実ともに賞与、給料ないし通勤手当であり、使用人給料にあたる。仮りにしからずとするも福利厚生施設の設置ないし購入のために支出した福利厚生費で損金として計上すべきものである。よつてこの点を看過してなした本件各更正処分ならびに過少申告加算税賦課処分は違法であつて取消されるべきである。

第二、被告の認否と主張

一、請求原因一、二の事実および同三の事実中、被告が不件各正処分をなすにあたり、原告主張のとおりの各償金否認をなした点は認めるが、右各損金の否認が違法であるとの主張は争う。

二、被告の主張

(一) 本件各課税の経緯について

原告の三六年度ないし三八年度分法人税の確定申告額、これに対する被告の更正額ならびに再更正額は次表のとおりである。

三六年度、三七年度、三八年度表<省略>

右のとおり、(1) 三六年度分法人税について再更正処分(本件更正処分にあたる)をなした理由は、原告が損金に計上していた特別賞与金五、七〇〇、〇〇〇円及び特別給与金五六三、〇〇〇円を否認し、その合計額金六、二六三、〇〇〇円から原告が源泉所得税額として留保した金一二八、五二〇円を差引いた六、一三四、四八〇円は原告から組合に対してなされた寄付金と認め、これに別途原告が申告した他の寄付金二〇〇、〇〇〇円を加算した額六、三三四、四八〇円から、旧法人税法(昭和二二年三月三一日法律第二八号)第九条第三項、国法施行規則(昭和二二年三月三一日勅令第一一一号)第七条により認められる寄付金の損金算入限度額二〇〇、〇〇一円を差引いた金六、一三四、四七九円は税法上寄付金として損金に計上することが認められないのでこれを原告の所得金額に加算し課税したもの、また(2) 三七年度分法人税について再更正処分(本件更正処分にあたる)をなした理由は、原告が損金に計上していた特別賞与金二、四〇〇、〇〇〇円を否認し、右金額から原告が源泉所得税額として留保した金二九、四五〇円を差引いた二、三七〇、五五〇円は原告から組合に対してなされた寄付金と認め、この二、三七〇、五五〇円から前同様の理由により認められる寄付金の損金算入限度額七五、〇六二円を差引いた金二、二九五、四八八円は法律上寄付金として損金に計上することが認められないのでこれを原告の所得金額に加算し課税したもの、さらに(3) 三八年度分法人税について更正処分(本件更正処分にあたる)をなした理由は、原告が預金に計上していた特別賞与金一二、五〇〇、〇〇〇円及び通勤手当金五〇〇、二五〇円を否認し、その合計額金一三、〇〇〇、二五〇円から原告が源泉所得税額として留保した金一六七、〇六〇円を差引いた一二、八三三、一九〇円は原告から組合に対してなされた寄付金と認め、この一二、八三三、一九〇円から前同様の理由により認められる寄付金の損金算入限度額四五、三〇九円を差引いた金一二、七八七、八八一円は法律上寄付金として損金に計上することが認められないのでこれを原告の所得金額に加算し課税したものである。

(二) そうして、本件各更正処分において、前記のとおり前表各加算項目中、三六年度につき賞与金五、七〇〇、〇〇〇円および給料金五六三、〇〇〇円、三七年度につき賞与金二、四〇〇、〇〇〇円、三八年度につき賞与金一二、五〇〇、〇〇〇円および通勤手当金五〇〇、二五〇円を各否認し、いずれも寄付金と認めた理由は次のとおりである。

(1)  三六年度ないし三八年度分特別賞与を否認し寄付金と認めた根拠について、

イ、原告は労働者全員に対し通常の貸与を支給しており右のよつな巨額の特別賞与を別途支給すべき特段の理由は何ら見当らない。

ロ、右各特別賞与は一律に(三六年度および三八年度は世帯家族の有無のみを基準として三六年度につき独身著金五〇、〇〇〇円、世帯者金一〇〇、〇〇〇円、三八年度につき独身者金一〇〇、〇〇〇円、世帯者金二〇〇、000円を、三七年度は金五〇、〇〇〇円を一律に)支給しているが、一般に賞与等の給与は個々の労働者の勤務状況、職務内容、勤務年数等を考慮して支給されるべきものである(昭和二二・九・一三労働省発基一七次官通達、賞与とは定期又は臨時に労働者の勤務成績に応じて支給され、その額が予め定められていないものをいう。)から右勤労期間勤労成績、職務内容等を全然考慮しない原告の特別賞与の支給は、通常の賞与決定基準をいちじるしく逸脱したもので賞与と認めることはできない。

ハ、本件特別賞与の支給については、原告の役員と原告の労働組合の役員の間において話し合いのうえ決定されたものであり、他の一般労働者のほとんどはこの話し合い及び決定については全く関知せず更に現在に至るまでこの事実を知らないのである。

ニ、貸与は通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならないところ、本件特別賞与は現実に個々の労働者に支払われた事実は全くない。(労働基準法第二四条第一項参照)

ホ、原告は帳簿上、三六年度特別賞与については、昭和三六年一二月三〇日従業員中村誠外六四名に対して、源泉徴収税額一〇一、九二〇円、失業保険料二六、六〇〇円計一二八、五二〇円を差引いた金五、五七一、四八〇円を支出し、同日同額を右従業員全員から組合が組合費として徴収し、さらに原告が組合からこれを借入金として受け入れた処理をなし、三七年度特別賞与について昭和三七年一二月二九日従業員鳴松重夫外四七名に対して、源泉徴収税額一八、六〇〇円、失業保険料一〇、八五〇円計二九、四五〇円を差引いた金二、三七〇、五五〇円を支出し、同日同額を在従業員全員から組合費として組合が徴収し、さらに原告が組合からこれを借入金として受け入れた処理をなし、三八年度特別賞与について昭和三八年一二月二六日従業員鳴松重夫外八四名に対して、源泉徴収税額一六七、〇六〇円を差引いた金一二、三三二、九四〇円を支出し、同日同額を右従業員全員から組員費として組合が徴収し労働組合長山神憲一名義で鹿児島銀行隼人支店に定期預金しているが、労働基準法上労働協約に別段の定めがある場合等のほかは賞与につきこのような処理は全く許されないものである。

ヘ、右各特別賞与を支給したのち退職した労働者に対しては、原告が使用している右各特別賞与相当額を退職の際返済すべきところ全くそのような事実はない。

ト、ところで三六年度および三七年度の各特別賞与を支給するに至つた経緯は、役員会において、原告と労働組合の役員との間で右各特別賞与を支給する約束がなされたことによるのであるが、三六年度分については昭和三六年一二月三〇日、三七年度分については昭和三七年一二月二九日組合はこれを全額組合資金として直接原告より受け入れ、更に組合は全額を原告に貸与した。また、三八年度特別賞与を支給するに至つた経緯は、昭和三八年一二月二〇日役員総会において右特別賞与を支給する議決がなされたことによるものであるが、同月二六日組合はこれを全額組合資金として直接原告より受け入れ更に全額組合長山神憲一名義で鹿児島銀行隼人支店に定期預金をなし、昭和三九年一月三一日組合はこれを原告の同銀行に対する借入金一二、八〇〇、〇〇〇円の担保に提供している。

以上の事実を併せ考えると、本件各特別賞与は原告が組合に寄付した寄付金にほかならない。

(2)  三六年度分特別給与金五六三、〇〇〇円を寄付金と認めた根拠について

1 本件特別給与は次の理由により給与とは認められない。

イ 原告は昭和三六年一〇月一四日計一五〇、〇〇〇円、同年一一月七日計五八、〇〇〇円、同年一一月一〇日計二四、〇〇〇円、同年一二月六日計四一、〇〇〇円、同月二九日計八〇、〇〇〇円、同月三一日計二一〇、〇〇〇円合計金五六三、〇〇〇円を特別給与という名目で労働者全員に対して給与とは別途に支給しているが、これを支給すべき理由は何等見当らない。

ロ 本件特別給与は毎回一律に支給されているが、日雇労働者は別として一般に給与は個々の労働者の勤務状況、職務内容、勤務年数等を考慮して決定されるべきものであるから本件特別給与は給与決定基準をいちじるしく逸脱したもので給与とは到底認められるものではない。

ハ 給与は通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならないところ、本件特別給与は現実に個個の労働者に支払われた事実は全くない。

ニ 本件特別給与は給与明細書によれば特別手当という名目で支給され浴場建設資金としてその全額を差し引かれ結局支給されていないのであるが労働基準法上労働者を代表する者との書面による協定等がある場合等のほか給与につきこのような処理は認められない。

2 ところで本件特別給与を支給するに至つた経緯は原告と原告の労働組合が結成される以前の労働者の団体である従業員懇親会の代表者との間で従業員懇親会の浴場を建設する資金を特別給与といつ名目で原告から支出させる約束が成立したことによるのであつて、労働者は給与支給に際し特別手当ということで本件特別給与の支給を受けることになつているものの、これはそのまま浴場建設資金として全額控除され、給与が支給される場合に何等利益を得るわけではなく、結局従業員懇親会においてその利益を全画的に享受するものであることと、1で述べたとおり本件特別給与は給与と認めることができないものであることを併せ考えると、本件特別給与は原告が従業員懇親会に寄付した寄付金にほかならないというべきものである。

(3)  通勤手当金五〇〇、二五〇円を寄付金と認めた根拠について

1 本件通助手当は次の理由により手当とは認められない。

イ 原告は昭和三八年一二月二六日金五〇〇、二五〇円を通勤手当といつ名目で労働者全員に対して一律に月七五〇円の割合で一年分をまとめて支給しているがこれを支給すべき理由は何等見当らない。

ロ 一般に通勤下当は労働者の通勤距離または通勤に要する実際の費用に応じて算定されるものであるところ、本件通助手当は各人に一律に支給されており、右の通勤手当決定基準をいちじるしく逸脱したものであるから通勤手当とは到底認めることはできない。

ハ 手当は通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならないところ、本件通勤手当は現実に個個の労働者に支払われた事実はなく、原告から支出されたものは労働組合の監事山本善一郎名義で鹿児島銀行隼人支店に定期預金されている。

ニ 通勤手当は在職者には全員支給すべきであるが、昭和三八年度中の退職者については支給されていない。

2 ところで本件通勤手当を支給するに至つた経緯は原告と原告の労働組合の代表者との間で通勤用のマイクロバスを購入する資金を通勤手当の名目で二年間一律に月七五〇円を原告から支出させる約束が成立したことによるものであるが、労働者は給与支給に際し通勤手当ということで本件通勤手当を受けることになつているものの各人に支給されることなくこれは昭和三八年一二月二六日バス購入資金として原告から組合の監事の山本善一郎名義で鹿児島銀行に定期預金され、昭和三九年一月三一日組合はこれを原告の同銀行に対する借入金一二、八〇〇、〇〇〇円の担保に提供している事実と1で述べたとおり本件通勤手当は賃金と認めることができないものであることを併せ考えると本件通勤手当は原告が労働組合に寄付した寄付金にほかならないというべきである。

(三) 右に述べたとおり本件各特別賞与、特別給与および通勤手当はいずれも賃金とは認められず、又福利厚生施設費等として支出しても、右各金員の交付を受けた小林工業従業員懇親会および同労働組合は人格なき社団であつて原告と対立するものであり且つ右団体の経理が原告の経理の一部に属するものでないからすべて寄付金と認められる。よつて被告のなした本件各更正処分は適法なものというべく原告の本訴請求は理由がないものとして棄却されるべきである。

第三、被告の主張に対する原告の認否

一、被告の主張(一)(課税の経緯について)の事実は認める。

二、同(二)(各損金を否認し寄付金と認めた根拠について)の事実のうち

(1)  (各特別賞与の否認)の事実については、原告が労働者全員に対し別途、通常の賞与を支給していること、本件各特別賞与が被告主張のとおりに一律に支給されたこと、右は原告の役員と原告の労働組合役員の間において話し合いのうえ決定されたものであること、本件各賞与は現実に、直接個々の労働者に対して通貨で支払われたものでないこと、原告は本件賞与について帳簿上、被告主張のとおりの処理をなしていること、本件特別賞与支給後退職した労働者に対して右賞与相当額を退職の際返還していないこと、は認める。本件各特別賞与は組合がこれを全額組合資金として直接原告より受け入れたものではなく、三六年度分については組合基金として、三七年度分については組合役員旅費、洗濯場所建設基金、三八年度分については組合の労働会館建設基金として原告が組合から要求を受け団体交渉の結果、特別貸与として各組合員に支給することとなつたものである。ただ原告は組合費徴収に関する協約に基き便宜上本件賞与を組合費として差引き組合に納め、さらに三六・三七年度分については、原告があらためて組合から借り受け、三八年度については被告主張のとおり組合長名で預金した上、原告の銀行借入金債務の担保に提供したものである。その余の事実は争う。

(2)  (特別給与の否認)の事実については、原告が、被告主張の日に被告主張の各金員を特別手当という名目で組合員全員に対し一律に支給したこと、しかし本件給与は通貨で直接個々の労働者に支払われたものでないこと、右は被告主張の懇親会が同会の浴場を建設する資金を得るため、原告と同会代表者間で右浴場建設に関する特別手当として組合員全員に支給することの契約が成立し、ただ右を労働者に支給するに際し、右懇親会が同会費として労働者から徴収するかわりに、原告が給料から浴場建設資金として全額控除して、これを右懇親会に交付したものであることは認めるが、その余の事実は争う。右の差引支給については原告と組合代表者間にその旨の契約があつたことによる。

(3)  (通勤手当金の否認)の事実については、原告が昭和三八年一二月二六日金五〇〇、二五〇円を通勤手当の名目で労働者全員に対し一律に日七五〇円の割合で一年分をまとめて支給したこと、右手当支給の経緯が被告主張のとおり原告と組合代表者間で通勤用マイクロバス購入資金を支出させる約束が成立したことによるものであつて、右手当支給に際しては現実に個々の労働者に支給されたものではないこと、右金員は昭和三八年一二月二六日バス購入資金として原告から組合の監事山本善一郎名義で鹿児島銀行隼人支店に定期預金され、昭和三九年一月三一日組合はこれを原告の同銀行に対する借入金の担保に供していること、通勤手当は在職者に全員支給すべきであるが昭和三八年度中の退職者には支給していないことは認めるがその余は争う。本件通勤手当も前同様原告が右手当支給に際し組合に代り差引き控除して支給し、これを組合に交付したものである。

三  (三)の事実については、小林工業従業員組合および同労働組合が法人格なき社団であること、右団体は原告と経理を異にすることは認めるがその余は争う。本件各支出はいずれも団体交渉の結果、事業維持上、利益の有無にかかわらず支給を義務付けられたものであり業者間協定に基く低賃金を補充し、労働著の離業を防止して、これを都会並に優遇するために必要な出費であり、賃金ないし福利厚生施設費として損金に該当する。

(証拠関係)<省略>

理由

一、原告主張の請求原因一、二の事実(本件各更正処分の存在ならびに不服申立ての前置)、および同三の事実中、被告が本件各処分をなすにあたり原告主張の各特別賞与、特別給与、通勤手当の損金計上を否認しいずれも寄付金と認定した事実ならびに被告のく主張する本件各課税の経緯についての事実(右各損金の否認を除きその他の税額算出にいたる計算関係を含む)は当事者開こ争いがない。

二、そこで、原告主張の本件各更正の取消事由こつき順次判断する。

(一)  三六年度ないし三八年度分特別賞与の各否認ならびにその寄付金認容について、

1  原告は、従業員に対し該年度毎に本件特別賞与以外にすでに通常の賞与を支給していること、原告は不特別賞与を世帯家族の有無のみを区別して被告主張のとおりいずれも従業員に一律に支給されたものであることは当事者間に争いがなく、また右賞与を支給するに至つた経緯は、原告と組合役員との団体交渉の結果、原告は組合側の三六年度については組合基金の要求に基き、三七年度については組合の役員旅費、洗濯場所建設基金、リクレーション費用等の要求に基き三八年度については労働会館建設員金の要求に基づいて、両者間で右特別賞与を支給することの合意が成立したことによるものであることは原告の自認するところである。従つてこれらの事実と、<証拠省略>ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、右特別賞与名目の支出の経済的実質は原告の組合に対する組合資金の支出であるというべく、従つて、それが、労働の対価として、個々の労働者の勤務状況、職務内容、勤務年数等を考慮して支給される本来の意味の賃金(労働基準法第一一条)に当らないことは明らかである。

2  つぎに本件各特別賞与名目の支出は帳簿上、各年度とも源泉徴収税額ならびに失業保険料をそれぞれ差引いた上、従業員各人に特別賞与の形式で支出し、何時に同額を組合が組合費として全額徴収するものとし、原告がその支給に際し組合に代つて右徴収にあたつたので、結局個々の労働者には現実の支給がなされることなく、原告において全額控除してこれをそのまま組合に交付していることも当事者間に争いなく、<証拠省略>によると原告が組合に対しこのような支出形式をとつたのは、組合に直接金員を交付することが不当労働行為とされることを慮れた結果にほかならなかたことが認められる。ことに、その支給後退職した従業員に対し、右賞与相当額の返済もなされていないことは当事者間に争がない。従つてこれらの事実は本件各賞与が、実は、原告の組合に対する組合資金交付の趣旨であつたことを裏付けるものというべきである。

3  果してそうだとすると、原告は組合役員を除く一般従業員も右団体交渉の経緯ないし右賞与支出の事情を諒知していて、関係当事者の協定に基いて、その支出がなされた旨主張するけれども、これらの事実をもつてもとうてい前記の結論を左右できない。

(二)  三六年度分特別給与の否認ならびにその寄付金認容について

1  原告が、被告張のとおり右特別給与(たゞし原告は特別手当と称している。)を六回にわたり、毎回各従業員一律に、給与とは別途途支給していること、右特別給与を支給するに至つた経緯は、原告と原告の労働組合が結成される以前の労働者の団体である従業員懇親会の代表者との間で右懇親会の浴場建設資金を原告から支出させる約束が成立したことによるものであること、各従業員に対する右特別給与支給に際しその支出形式は給与明細書によれば特別手当という名目で支給されているものの同時に浴場建設資金として全額差し引かれ、現実には個個の従業員に対し支払われていないことは当事者間に争いがなく、また右全額控除は右懇親会が同会費として従業員から徴収するかわりに原告が代つてなしたものであり、これをそのまま全額右懇親会に交付したものであることは原告の自認するところであり、<証拠省略>によれば右金員は右懇親会に交付された後、全額同会の代表者鳴松重夫名義で鹿児島銀行隼人支店に預金されたことが認められる。

2  以上の事実関係から本件特別給与は、その支給名目を特別手当として一旦各従業員に支給した形式を踏んだとしてもその実質は前記懇親会の浴場を建設する資金の支出であるから前同様本来の意味の資金といえないことは明らかである。

(三)  三八年度分通勤手当の損金否認について

1  原告が、被告主張のとおり右通勤手当を各従業員一律に一年分一括支給していること、右手当を支給するに至つた経緯は原告と原告の労働組合代表者との間で団体交渉の結果、組合が通勤用マイクロバスを購入する資金を従業員一人当り月七五〇円の割合で一律に原告から支出させる約束が成立したことによるものであること、労働者に対する給与支給に際し右金員を通勤手当として支給されたものの現実に個々の従業員に支払われることなく前同様バス購入資金として組合に代わり原告が全額これを控除して直接組合に交付し、組合はこれを組合の監事山本善一郎名義で鹿児島銀行に定期預金し、組合はこれを原告の右銀行に対する借入金の担保に提供していることは当事者間に争いがない。

さらに右バスの用途につき遠距離通勤者は通勤利用し、近距離通勤者も休日にはリクレーションに利用するものであることは原告の自陳するところである。

2  右の事実によれば本件通勤手当はその支給名目が通勤手当であるとしてもその実質は組合のマイクロバス購入資金の支出というべく、労働者の通勤距離または通勤費用に応じて算定されるべき通勤手当に該当しないこと従つて賃金に包含されないことは明らかである。

(四)  寄付金認定について

結局、前述の如く前記二の(一)ないし(三)の本件各金員の支出はそれぞれ組合資金、懇親会の浴場建設資金、ないしは組合のマイクロバス購入資金として原告の組合又は従業員懇親会に対する金員の無償の交付というべきものである。従つて、法人税法第三条、第一一条、第二二条、第三七条の各法意に照すと、これらの支出はいずれも同法上の寄付金と解するのが相当である。

三、原告は予備的にかかる支出は福利厚生費として損金に算入すべき旨主張するけれども、もともと右団体はいずれも法人格はないが、独立の社団であり原告とはその経理を異にしていることは当事者間に争がなく、資産の帰属主体としてみる限り原告会社と同一体たるべきものではなくかえつて原告と対立する存在であることはいうまでもない。従つて、たとえ原告がかかる団体との関係で、原告主張の如く従業員の福利厚生ないし福利厚生施設のため費用に充てる目的で、団体交渉の結果組合ないし懇親会との関係でその支出を義務づけられ、原告の業務の維持遂行上支出を余儀なくされたとしてもそれは、事業収益を挙げるための経費ないし費用の面からみれば間接的なもので、直接必要な一般管理費その他の費用とはいい難い。すなわち、かかる福利厚生費用の支出ないし同施設の建設等(この場合、流動資産が固定資産に転化する結果その減価償却費)につき本来正規の税法上の損金の取扱を受くべきものは、前記各金員の支出を受けた懇親会または組合であろう。要するに、本件の場合前記各金員を一旦原告と対立する懇親会ないし組合に交付しその運用に委ねたものである以上、その利益を原告各従業員が、全面的に享受するとしても、それは組合施設等による間接の利益にすぎずこれをもつて直接原告の事業執行上必要な支出と認めがたく、主張は理由がない。

四、従つて原告の前記無償の金員の交付を税法上原告の組合ないし懇親会に対する寄付金として、損金に算入しなかつた被告の本件各更正処分は適法であつて、原告の主張する取消事由はいずれも存しない。

よつて、原告の本訴各請求はいずれも理由かないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本敏男 吉野衛 三宮康信)

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